兄弟にはどう考ええても分からない。
教えてくれと頼むと
「ならわしにも頼みがある。・・・ お前たちの悪業これからは一切しないと約束できたら語ろう。」と大師。
山刀を振りかざした二人は顔を見合せ暫しためらった磐司橋が、ついにはしびれを切らし「よかろう!語れ」といった。
「ん。お前たちはわしを裸にし何もかも盗ったと思っていたろうが、わしの心ばかりは盗れなかったろう。・・・ どうじゃ・ 他人の心を盗るには、常々善い行いをしなければ盗れるものではない。これは最も難しく、最も誉れ高く尊い事なのじゃ・・・わかるか・・・ 云々」
慈覚大師に諄ケと諭されやがて改心悟した兄弟は、持っていた弓矢を捨て、ついには慈覚に教えを乞い善人になったという。
表磐司にも裏磐司にも百人ほど入れる岩屋(岩窟)があって磐次郎磐三郎の住家と伝えられ、後にマタギたちが入ってみると中に衣のようなものがあったという。
その後兄弟に案内され縄張りである今の山寺へ行くと慈覚大師円仁は、その山容を見渡すと汗でぬれた衣を乾かすほんのわずかな場所を借りようと磐司に乞い願ったという。承諾を得た大師が衣をさっと石か木に掛けるとたちまち衣が広がり、山寺しいては二口面白山など全山を覆いつくしたという。
さらに円仁は、後に土地借用について兄弟に証文を書き渡した。はじめ十年の約束で承諾した磐司だったが、「十」の上に「ノ」という墨をこぼすという大師の巧みな筆使いにより、借用期間は千年になったと伝わる。